東京高等裁判所 昭和28年(う)3718号 判決 1954年5月12日
控訴人 被告人 山村健二こと小田切豊
検察官 中条義英
主文
本件控訴は之を棄却する。
当審の未決勾留日数中七〇日を本刑に算入する。
理由
被告人の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これについて判断する。
一、控訴趣意中原判決に事実誤認および法令適用の誤りある旨の主張について。
論旨は、本件ひ首については、さきに成規の登録手続がなされたのであるから、原判示日時場所における所持は不法のものとはならざる旨主張するのである。
そこで審按するに、被告人の原審公廷における供述(原審第一回公判調書記載)、被告人の検察官に対する供述調書、被告人に対する現行犯人逮捕手続書、押収にかかるひ首一振(昭和二八年押第一一九七号の一)および被告人提出にかかる東京都教育庁社会教育部文化課長の証明書を綜合すると、本件刀剣類については、さきに奥村恵が美術品か骨とう品たる刄渡り一尺五寸二分の脇差として銃砲刀剣類等所持取締令所定の登録をなしたのを昭和二七年八月頃被告人が右奥村より譲受けて所持中柄もとから四、五寸のところで刀身が切れたので、被告人は自身で之を刄渡り約二二糎のひ首に改作し且つ自製の柄や鞘等を附け、その後あらためて成規の登録をなすことも許可を受けることもなくして原判示日時に至つたことが認められる。而して右刀剣類は右折損および改作により、その外形および観賞的価値等は一変し、美術品や骨とう品たる性質を喪失して、その登録物件としての同一性は消滅し、単純なる普通のひ首に更改されたのであるから、爾後之を所持するには別に前記取締令による許可を受くべきものと解するを相当とする。故に斯る許可なくして之を携帯していた被告人の所為を以て右取締令に反する不法所持なりとした原判決は正当であり、所論のような事実誤認も適条の誤りもない。論旨は孰れの点からみても理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 下関忠義)
控訴趣意
私の所持して居りました匕首は全々不法にて所持して居た物では無く前回甲府検察庁に提出しました銃砲刀剣登録証がありますがそれは長さ一尺五寸二分当時のもので刀を折つてしまつてからは申請せずに持つて居たものですがその登録証が全々無駄と云ふ様に甲検にては取上げて下さいませんで私の家の者に登録証を帰してしまいましたのでその点御再審を迎ぎ度く存じます同時に所持せるヒロポンも私と同行の女五十嵐也摩子がひどい中毒者にて四十七本の内に女の分も入つて居りますのに女は一晩にて帰り私のみ体刑は少し片手落と存じます勿論私は前科者故に罰金刑とは存じて居りましたがこの点も御推察の上にて今回は御寛大なる御処置を下さらん事を御願ひ申します。